シーリングの種類と補修方法
壁のひび割れ(クラック)等を個人のDIYで済ませることができるシーリング(コーキング)は、優れもので便利な補修グッズですが、雨漏りの補修効果は限定的であり、特に紫外線による劣化は早ければ数年で破断を起こす事もあります。
なので、手軽で便利ではあるもののシーリングの破断とともに雨漏りの再発を繰り返す事例が後を絶ちません。
このページではシーリングが、どの程度、雨漏り修理・補修・塗り替えに有効であるかを分かりやすく解説し関連した情報や知識も合わせて紹介していきたいと思います。
RC造のクラック修理(エポキシ注入)
目次
コーキングとシーリングの違い
コーキングとシーリング、「何が違うのか?」と、お客様に質問されるこの2つの呼び名について少し触れたいと思います。
コーキングは詰め物や穴をふさぐという意味がありシーリングは密着や密閉などの意味が含まれています。
コーキング材は合成油・天然油を鉱物と混ぜて作られており例を挙げると、古い学校校舎の窓ガラスと鉄枠の淵に白い粘土のような詰め物を見たことがあるでしょうか?
その白い詰め物がコーキングになります。
対してシーリング材の主成分はポリサルファイド・シリコン・ウレタン等から作られていて、コーキングガンで注入し硬化するとゴム状の弾力性がある素材です。
元々、コーキングの方が古くから輸入され止水材として使用されていた事から一般的な呼び名として定着し、建築の施工現場ではコーキングもシーリングも同じ意味の使い方としてとらえても問題はありません。
(現在、建築現場ではシーリング作業が主流でコーキングの使用は皆無です。)
シーリングの種類と用途
次にシーリングにもいくつかの代表的な樹脂があり使用する用途によりシーリングの使い分けをします。
例えば、シリコーン系シーリングは耐候性・耐水性・耐熱性に優れていますが、他のシーリングを上から増し打ちしをてもシリコーン系シーリングとは密着しません。
密着しないのであれば、とうぜん止水効果は望めず雨水の浸入を簡単に許してしまう結果になる事から、下地の段階で密着に必要な適切な下地処理を施す必要があります。
また、シーリング材の性能そのものは良くても紫外線に弱いため化粧材(シーリング)としては長く持たない樹脂成分もあります。
なので、シーリングを使用する時は使用方法を選ぶ必要があり、下記に人気のあるシーリングの一覧とタイプを参考程度にまとめてみました。
1.シリコーン系シーリング (シリコン)
耐候性・耐水性・耐熱性に良好、キッチンや浴槽廻り(風呂・タイル)の補修などに優れていますが、上からの塗装は不可です。
2.変性シリコーンシーリング材 (変性シリコン)
耐候性・塗装性良好、シリコーン系
シーリング材と違い塗装可能、建築や板金加工などに使用されます。
3.アクリル系シーリング材(コーク)
耐候性・耐水性・耐熱性には劣るが水性なので取り扱いが簡単、水分が抜けて硬化する特性を持つため、硬化後の肉やせがあり、内装の貼り紙の補修に一般的に使われています。
4.ポリウレタン系シーリング
塗装下地に良好、紫外線等の耐候性に弱いが伸縮性には優れているため塗装下地には相性が良いと考えられます。
5.ポリサルファイド系シーリング
耐油性・耐候性良好、おもに躯体目地に使用されることが多いです。
注意:DIYなど自分で補修を考える時はシーリング購入店で良く相談をしてから購入する事が望ましく、特に、塗装下地は可塑剤(かそうざい)が含まれていないノーンブリッドを用すること。
シーリングの限界と塗装の有効性
お客様から「シーリングの上に塗装をすると長持ちしますか?」と質問を受ける事があります。
塗装が保護膜になり、 紫外線からシーリングの劣化を防ぐ効果はありますが塗装をする事により、シーリングが破断しないと考えるには無理があります。
理由をお話するにはジョイント目地がなぜ存在するか、というところまでセットで話しを掘り下げる必要があります。
まず、外壁材であるサイディングやALCのパネルはパネルとパネルの間には必ず隙間を開けて目地を作ります。
中にはシール処理不可のガスケット目地を使う場合もありますが、いずれにしても外壁パネルとパネルの間には目地を必ず設ける必要があります。
理由を簡単に説明すると建築物は工法に関係なく揺れる(例:地震・近隣工事の振動等)環境にあり揺れる事でパネル同士がぶつかって破損しないように工夫されています。
つまり、パネル目地部分に隙間がある事により、建物の揺れを吸収するように設計されています。
例えば、シーリングを生身の人間と例えるなら塗膜は服の役目になり、紫外線から皮膚を守れたとしても、外部から人体に強い衝撃を受けると生身の体はダメージを受けます。 この事から、日常的に負荷がかかる目地のシーリングはいずれは破断します。
なので・・・正しくは、シーリングの上に塗装をすると直接紫外線が当たらないため経年劣化は遅れるが、どちらかというと建物の揺れ等でいずれは破断する運命にある。
以外に知られていないシーリングの大事な知識
1.二面接着と三面接着
パネルとの継ぎ目・ひび割れ(クラック)などに使用するシーリングについてのお話しです。
少し専門的な話しになりますがシーリングの耐久性を理解するには重要な知識の一つであり、施工する場所によりシーリングの打ち方を二面接着と三面接着に打ち分けします。
壁の底までシーリングが注入されていない状態が、二面接着です。
壁のみに接着されているので建物が揺れても追随性がありシーリングが破断しにくい構造になっています。
そして、壁の底までシーリングが注入されているのが三面接着です。
一見、膜厚があり頑丈そうに思えますが、実は底が壁面等に密着しているため建物の揺れを三面で受けることから二面接着に比べ破断しやすいといわれています。
2.ワーキングジョイントとノンワーキングジョイント
では、全てのシーリングの打ち方を二面接着にすれば良いかというと、そうではありません。
以外に知られていない知識ですが・・・
ここで、必要になってくる考え方がワーキングジョイントとノンワーキングジョイント の知識です。
そもそも二面接着・三面接着と言う技法がある事から必要な場面で使い分けているというのが正しい考え方です。
簡単にワーキングジョイントを説明すると躯体の動きが大きい場所を意味しALC壁の目地はワーキングジョイントにあたり、二面接着で対応します。
ノンワーキングジョイントはその逆で躯体の動きが小さな場所になり、この場合は三面接着で対応します。例としては、鉄筋コンクリート壁(RC)の打設目地(階層ごとのつなぎ目)にあたります。
まぁ、専門的に話すと少し違うかもしれませんが、解りやすくいうとこんな感じです。
メリットが高いと思われる二面接着ですが、部分的にシーリングが破断すると内部に水がたまる事もあり、呼び水となって、そこから雨漏りを誘発する可能性があります。
なので、動きの小さなノンワーキングジョイントに当たる目地は三面接着にして出来るだけ水が溜まらない環境を作ります。
また、ワーキングジョイントの中でも特に揺れが大きい部位があり、部位の動きの特徴を知っているかどうかで雨漏り修理方法は大きく異なります。
何故その場所で、どうして動きが大きくなるのか・・・これも以外に知られていない事ですが、修理や改修工事にはとても重要な知識です。
上の写真の四角(赤)で囲んでいる壁の角(コーナー)部分が建物の中で動きが最も大きく、シーリングに負担がかかりやすい部位です。
理由として、建物は同じ方向に揺れる様に思われますが、実は面(東西南北)により動きが異なりこの、異なる動きが大きな負荷になりシーリング剥離の原因となり、雨漏り修理及び塗り替え時の注意点として施工時の重要なポイントとなります。
注意:シーリングの主成分も大事ですが、「木を見て森を見ず」のことわざがあるように建物全体との相性も考慮する必要があります。
シーリンング工事の注意点
1.プライマー
今までのお話はシーリングを使用する前にどのようなシーリングを選び 最適なシーリングの打ちはどのようなものかを話してきましたが、では実際に施工する際に必要な知識を2点、簡単にまとめていきます。
シーリングにも色々なメーカーがあり、実際にどのメーカーが優れているかは お客様の立場から判断は難しいと思います。
ただ、それ以上に重要な事はプライマーの塗布不足やシーリングがプライマーより極端にはみ出していないかなどが重要です。
シーリング(ピンク)
プライマー(ブルー)
どれだけ材料性能が良くてもプライマーの塗布量が少ないと密着不良がおき、シーリングがプライマーより大きくはみ出すと、はみ出したところからプライマーから剥離がおきるからです。
以外に軽視される傾向にあるプライマーの塗布方法ですがシーリングを安心して長持ちさせる方法としてはとても重要な基本的な考え方です。
2.Uカット(Vカット)は正しい施工方法なのか?
壁の雨漏り記事でも話しを紹介していますが重要な考え方なので、シーリングの記事でも少し触れておきます。
ひび割れのUカットに適している壁は、鉄筋コンクリート(RC造)やALC壁です。
理由としてはコンクリートの壁厚120mm~200mm程度あり機械でひび割れ部分をU型に広げてシーリングを打つ事ができ、鉄筋の腐食を押さえる有効な方法です。
しかし、サンダ(壁を切る機械)でモルタル(左官工事)にUカットの補修は不向きです。理由として壁厚12mm~30mmと薄く、壁を切るときに下地のフェルト(防水紙)を傷つける恐れがあります。
「慣れている」とか「施工が丁寧だから大丈夫!」などという話ではなく、機械で壁に切り込みを入れるわけですから、職人さんが自覚のない一瞬の出来事で防水紙を傷つけてしまう可能性があり、防水紙を傷つけて雨漏りを引き起こすリスクを作るよりは別の補修方法をお勧めします。
シーリングが破断すると直ぐに雨漏りにつながるのか?
さて、最後になりますがそもそもシーリングが破断する事の何が気になるかというとシーリングそのもの美観というより、壁面内部に多くの雨水が流下・浸入することで「雨漏りにつながるのでは?」もしくは「壁内が痛むのでは?」という問題だと思います。
確かに、壁内も痛み、雨漏りにつながることも確かですが、シーリングが破断した瞬間に雨水による被害が出るわけではありません
詳しくは私の壁の雨漏りを参照していただければご理解いただけると思いますが、ここではシーリングのテーマから話がそれるのでシーリング仕様が多い住宅用サイディング壁を例に挙げて少し触れておきます。
サイディングの場合、壁内部に防水紙(透湿防水シート)があり、壁材と防水紙の間に空間がある事で雨水は壁内空間を流下しながら外部に排出される仕組みになっています。
(この壁内空間を通気構法と呼ぶ)
なのでシーリングの破損=雨漏りというわけでは無く、通気が取れていることで空気の流れが壁内にあり、一定の時間があれば壁内も乾燥するはずです。
ただし、長い期間の放置は経年劣化が進み、防水紙が痛んで不具合が起きる可能性が高いので放置(シーリング破断)はおすすめできません。
シーリングで雨漏り修理をした事になるのか?
「シーリングで孔(あな)を埋めて修理をしてください。」と、お問い合わせがありますが雨漏り工事に関わってきた私には安易な返事をできない理由があり、今回は、「なぜ!気前よく返事が出来ないのか」、その理由についてお話していきたいと思います。
まず、職人さんが同じ材質を使って同じ図面で家を建てたとしても大量生産の様に寸分変わらず同じものが出来る訳ではありません。
これは「いい加減に工事を進めた」とか「手を抜いている」という事ではなく、その時々の状況により少しずつ違いがあり良い意味でいう手仕事の味のようなもので人それぞれ こだわりや個性があるように家にも個人の癖のような納まりが出てきます。
この癖のような納まりを雨漏り調査(非破壊検査)で原因を絞りこみ修理する段階で屋根・壁を解体してコアな原因を明らかにし、不具合を修正していきます。
実際どのような工事をするのか、なぜシーリングでは無理があるのかを事例を挙げて解説します。
事例1
散水調査により三階サッシと壁の取り合いにひび割れ(クラック)から雨水が浸入し、一階サッシ窓枠上部から浸出することを確認しました。
ここでシーリングのひび割れを補修すればよいと考えるのは荒っぽい話で、正しくは一階サッシ廻りかそれ以外の透湿防水シート(二次防水)の納まりに問題があることで雨漏りが発生していると認識する必要があります。
要するに、ひび割れを補修しても他の浸入部位から透湿防水シートの不具合箇所に到達すると、やはり雨漏りは発生する、またはシーリングが経年劣化で切れても同じく雨漏りは止まりません。
このイタチごっこを繰り返す間に主要な柱や梁にもダメージが及ぶ危険性が高くなります。
なので、正統な修理方法は一階から三階までサイディングを取り外し壁材内部の胴縁や透湿防水シート(防水紙)も撤去し、不具合を解消していきます。
下の写真は雨漏りがあったサッシ上部の透水シートを撤去した状態です。
よく見ると合板(耐力壁)を張り付けていない柱と梁が交差する位置に孔が見えます。
三階にあるサッシ取り合い不具合箇所の浸入口から、透湿シート(防水紙)の内側に雨水が廻りこみ、柱と合板の隙間を流下することで雨水が孔に浸入していた事が明らかになりました。
なので、孔に埋め木をしてシール(コーキング)で合板と柱の隙間を埋め、更に防水テープで二重に浸入を抑える措置をとりました。
ここまでが二次防水の透湿防水シートを張る前の段取、コアな原因を修正していく事で、今後、透湿防水シートの経年劣化が進んだとしても簡単に雨漏りが発生しにくいよう、予防する環境を整えました。
その後、透湿シート(防水紙)を張り、胴縁(木材)を取り付けて壁材の内部に空間を作ることで水が外部に排出する雨仕舞を作ります。
これがサイディングの通気口工法と呼ばれるもので、現在、住宅の外壁材(サイディング)は通気工法が主流です。
透湿防水シートに不具合がある場合、シーリングで孔を埋めたとしても、サイディングパネルの隙間等から不具合箇所に雨水が到達する可能性があり、そうなると、やはり雨漏りが発生する事になります。
事例2
雨漏りが発生したことから浸入口である笠木天端ビス納めとジョイントにコーキング処理が施されましたが、数年後、雨漏りが再発した事で調査及び修理依頼をいただきました。
(コーキング処理は他の業者)
やはり笠木天端のビス納めから雨水が浸入している事を確認。
笠木やパラペットを解体したところ雨漏りによる不朽が進行し、かなり大変な状態でした。
パラペット(立ち上がり)を外すと合板、横架材(おうかざい)まで腐朽が進んでおり構造体も修理をすることになりましたが、もし初期の段階で不具合を修理していたら横架材(構造材)まで被害が広がる事は無かったはず。
また、最初に請負をした業者は「非常に長持ちするシーリング材(故キング)を使用するので大丈夫」とのことでしたが、地震の多いこの国で、何トンもある建物のジョイントの揺れに耐えるようなシーリング材が果たしてあるのでしょうか?
私の思い浮かぶ性能の高いもので水族館のガラスと壁の取り合いに施工する1mあたり数十万もする特殊なシーリング材で一般的な建築に使用するシーリング材では、それほどの性能を確保できるものはありません。
もし、そのような特殊なシーリング材を使用するのであれば、普通に不具合部を解体して、修理するほうが効率が良いはずです。
注:ただ、誤解が無い様に補足すると部位によりますが、すべての応急処置(シーリング)が失敗するというわけではありません。
雨漏りが発生した場合のシーリング補修について(まとめ)
- シーリングによる施工は雨漏り修理ではない
- 軽減措置(雨水浸入を少なくする)か一時的な応急処置である
- 室内の雨漏りが止まったとしても、壁や屋根内部で雨水浸入する事による躯体ダメージの可能性
- 再発したときは初期段階より大きな支払いが必要になるリスク
- シーリング材はどれだけ良いものを使用しても必ず破断する
雨漏り修理にお金をかけたくないというのは当然だと私も思います。
また、上記でお話したリスクを理解した上でシーリングによる工事を望まれるのであれば、それはそれで一つの選択幅かもしれませんが決して良い施工方法ではなく、多くの雨漏り修理を経験した私にとって「安易な返事が出来ない理由」となります。
普段、他の業者の施工を取り上げて良い悪いの話はしないようにしていますが、「雨漏り修理数万円」的な集客目的のキャッチフレーズがあまりにも多いこと、また、お客様が分からないまま、大きな代償を払う可能性が高いことから、今回はあえて取り上げてみました。
決して、不安を煽るつもりはありませんが、雨漏り調査・修理は簡単なものではない事を理解し、お客様にとってベストな選択の手助けになれば幸いです。