防水(下地処理)の重要性を雨漏り診断士の視点で考える
FRP・ウレタン・シート防水と種類は様々ありますがどの防水を仕様するかは適材適所であり、唯一、とびぬけた防水材はありません。
ただ、改修における防水工事のポイントは、いかに剥離(膨れ)やひび割れ等の下地処理に注意を払うかが肝心であり、防水の下地処理を中心に雨漏り診断士としての見解を述べたいと思います。
本題に入る前に屋上と陸屋根、バルコニーとベランダの違いなどの建築用語について説明してから、防水の剥離(膨れ)について話していきたいと思います。
目次
屋上と陸屋根の違い
屋上と陸屋根は同じような意味合いで表現されていますが厳密に話すと、人が出入りできる最上部の外部スペースを屋上と呼び、人が出入りできない屋上部の外部スペースを陸屋根と呼びます。
ベランダとバルコニーの違い
一般的にベランダ・バルコニーも同じように表現をされていますが実はこれも正確にいうと違いがあります。
ベランダは2階以上の外部に張りだし、屋根等で降雨をしのげるスペースになります。
バルコニーやルーフバルコニーは外部に張り出し、なおかつ、屋根が無いスペースになります。
テラスとは大地や高台を指す言葉ですが、住宅のテラスは、建物外部で地盤面より一段高くなったスペースという認識で問題ありません。
注意:屋上と陸屋根やベランダとバルコニーの呼び方の違いはありますが解りやすく解説するため、同じ意味合いで表現していきます。
建築用語を知っている方にとっては違和感を感じるかもしれませんが、ご了承ください。
屋上・ベランダ防水の膨れ(通気緩衝工法)
ここから本題の剥離(膨れ)について解説していきたいと思います。
冒頭でも述べましたがどの防水が良いかは既存防水や室外機・配管パイプなどの役物により、現場の状況で判断します。
ただ、多くの雨漏り修理で学んだ事は、シンダーコンクリート(床)内部の水分を床から外部に逃がす仕組みが必要であり、防水の剥離を防止する事が大切です。
(陸屋根など面積の広い床・既存防水の状況による)
床内部の水分が太陽光で熱せられると水蒸気になり、外に逃げようとする力が働きます。
熱せられて膨れ夜には冷えて伸縮を繰り返すことで防水が破断し、破断した箇所から水が浸入して雨漏りをひき起こす原因になります。
床の大きさや下地の状態・形状の違いにより、密着工法でも問題が無い案件もありますが、基本的に通気緩衝工法なら剥離や破断のトラブルが少なく、防水を長く持たせることが可能です。
通気緩衝工法説明図
通気緩衝工法の施工と工程
既存防水の不具合を撤去し、カチオンフィラー(モルタル系の密着素材)を塗布する事で既存塗膜との縁切りを目的として施工します。
この作業によって、既存塗膜と新設防水の干渉がある程度 抑えられ塗布したカチオンフィラーと防水の密着力を上げる事ができます。
カチオンフイラー施工後、通気緩衝シート及び脱気筒の設置を行います。
写真1の脱気筒は水分を外部に排出する理想的な施工位置から少し外れていますが、洗濯物など屋上の利用頻度が高く、脱気筒に つまずく転倒の危険性を避けるため安全性を優先します。
写真2の白いマットが床から水分を逃がす通気緩衝シートです。
最終的に水分は筒状の脱気塔(写真1:赤矢印)を抜けて外に逃げる仕組みです。
次に、屋上の雨水を樋に逃がす改修ドレンを設置します。
もし、既存ドレン(排出口)が経年劣化すると、ドレンの劣化部分から雨水が流下し壁内部に滴下すると雨漏りが発生する事になり、防水を新設する上で欠かすことのできない作業となります。
ここまでが新たに作る防水の下地処理になります。
- 防水層の剥離部を撤去
- カチオンフィラー(モルタル系の密着素材)を塗布
- プライマーを塗布
- ドレン設置
- 通気シートの設置
ガラスマットの上にFRP防水樹脂を流し込みます。
建物の動きから網目状のガラスマットが防水層の破断を防ぐ効果があると共に、防水層の膜厚を一定以上および均一にする役割があります。
写真3の半透明の状態で防水機能としは完成ですが、樹脂は防水機能に特化しているため、紫外線に弱く太陽光にさらされると、防水の劣化が一挙に進んでしまう事から、着色と保護を目的としてトップコート(グレー)を塗布します。
壁と防水の取り合いは端末金物で防水を押さえこみ、防水と下地の間に雨水が回らない様に金物で防水を抑え込む処理をします。
ただし、笠木がある場合は、写真4の赤矢印の位置(天端)まで防水を施工し、笠木を復旧する事から押さえ金物は使用しません。
(笠木の雨仕舞については、後で詳しく説明します)
- ガラスマット
- 防水樹脂
- トップコート
- 防水見切りに端末金物を固定して完了です。
単純にプライマー・防水・トップコートの3工程で済ませるものから通気緩衝工法の様に9工程までおこなう工事内容では、やはり金額には違いがあります。
ただ、屋根と同様に夏の暑い日差し・冬の冷たい雨・雪などにさらされ屋上やベランダの過酷な環境は壁面の1.5倍の劣化が進み水分を含んだ床の施工は脱気筒や通気緩衝工法などを取り入れる事が必要です。
注意1:新築での防水は新しい床下地との密着を考えると、通気緩衝工法を取る必要性は低い。
注意2:既存の塗膜防水がある場合につては、現場での状況判断になります。
防水下地が極端に悪い場合の事例
10年以上、雨漏りが止まらないと ご相談があった現場です。
調査の結果から不具合があったのは壁だと分かりましたが、私が調査する以前は屋上防水に原因があると考え、過去2回の防水工事を行ったようです。
とうぜん、雨漏りが止まらない事はもちろん壁の浸入口より雨水が流下し、一部が床(防水層)に流れ込むことで日差しに熱せられた雨水は水蒸気となり、広範囲に膨れが広がっていました。
(後で説明しますが、それ以外にも不具合)
お客様より防水層の剥離(膨れ)を「このままほっておいて良いのだろうか?」とご相談を受けお客様との協議の結果、新たに防水を施工することになりました。
(10年以上悩まされた壁の雨漏りは修理完了)
問題は防水の既存下地が あまりにも軟弱な事から、通気工法であっても膨れる可能性があり、問題を解消するために、既存防水(床)の上に耐水ベニヤを施工し軟弱な下地と完全に縁を切り、新たに防水層を形成することにしました。
念のため、下地のムーブメント(動き)を考慮して、ガラスマット(白色)を2重張りにしています。
防水施工の大事なところは、膜厚が厚く、しっかりと密着できる下地に施工する事が望ましい。
防水立ち上がりの不具合を解消する
防水が剥離した二つ目の原因として、防水立ち上がりの不具合がありました。
上記写真01(赤矢印)は防水の立ち上がりが壁より外に出ている事から立ち上がりの天端で雨水を受ける状態になっていました。
これでは立ち上がり天端から雨水の浸入を許すことは目視でも分かるので、立ち上がりの天端に水切りを設置。
また、写真01(青矢印)の笠木は防水のみになっていたので屋根下地のルーフィング施工後、屋根材にも使うガルバリュウム鋼板により、笠木を新設しました。
これで、すべての不具合は解消です。
よく似ているようで まったく同じ納まりの建物はなく、建物の状況と不具合に応じて柔軟に仕様を変更する必要があります。
床(防水)のクラックによる雨漏りと対応事例
何層にもウレタン防水が施工されていますが、根本的な下地処理に問題があり雨漏りが再発した事例です。
防水の下地としてモルタルを施工していますが、そもそも、施工したモルタルが砂のようにパサパサの状態で既存下地に密着しておらず、さらに、モルタルを取り除いてみるとかなり大きなクラックが確認されました。
上の動画を見ていただくと、リアルに下地の状況が伝わると思います。
まず、問題ある剥離部分を取り除きクラックをUカットで広げてシーリングの打ちしろを確保します。
剥離部分を平滑にするためにモルタル系の補修材(白色部分)を使います。
ただし、壁に使用するモルタルは床の補修には不適合です。
理由として通常のモルタルでは乾燥時に伸縮することから補修部分が新たなクラック(ひび割れ)になる可能性があり、伸縮率が低いモルタル系の補修材を使用します。
重要:伸縮率が低いモルタル系の補修材
さらに念のため、ガラス繊維(ファイバーテープ)で剥離部を補強します。
クラック(ひび割れ)は長い間、水分を含んでいることから脱気筒(クラック先端)を設置し、床の水分を排気する仕組みを作ります。
この後、ウレタン防水を数回に分けて流し込み、紫外線の劣化を防ぐトップコートを塗って完成です。
雨漏りが発生した場合の防水工事(注意点)
次に雨漏りが発生した場合、通常の防水工事より様々な点に注意しなければなりません。
現場の状況により施工方法の違いがあり必ず必要というわけではありませんが、ただ、知った上で今回の工事に合わないから排除する事と、知らずに今後の憂いを残す事では大きな違いがあり、この辺についても解説しておきたいと思います。
1)笠木に手すりが飲み込んでいる場合の施工方法
手すりの根元が
既存防水の立ち上がりに、飲み込む様に施工されている場合、手すりの根元に穴を開けて防水材を注入し、手すり内部の防水性を高めます。
将来的に手すりが錆びて腐食し、手すり内部に雨水が回ってもある程度は安心ですが、そうなる前に鉄部塗装のメンテナンスをDIY(自分で施工)などで施し、錆がまわらない様にすることが望ましいと考えられます。
画像を最後まで見ると雨水が腐食した部位に雨水が溜まるか様子が分かります。
2)脱気盤でなく脱気筒を施工する理由と注意点
さて、次に脱気盤による不具合をお話します。
脱気筒と同じように床の水分を逃がす脱気盤というものがあります。
脱気筒と違い、筒が突出していない事から、足がつまずく危険性は低いのですが、床からの高さが数センチ程度しかなく、降雨量が多いと床に溜まった雨水(プール状態)が脱気盤の水分出口より逆流し、通気緩衝シート内部に流下、さらに、シンダーコンクリート内部に雨水が到達すると雨漏りを引き起こす可能性がある事から、弊社では使用を控えています。
ただし誤解が無いように説明すると、脱気盤そのものの品質には問題はありません。
ドレンに落ち葉・ゴミ等の影響で排出が悪くなっている事がない限り、床に溜まる雨水がベランダや屋上でプール状態になる事は、あまり考えにくい現象です。
ただ、昨今のゲリラ豪雨など以前とは気象の環境が変わり始めている事から、信じられない降雨量を想定すると脱気筒の方が安全であるという私の結論です。
なので、現状で脱気盤が設置されている場合は少し面倒ですが、ドレン(排出口)のゴミ等の詰まりは、マメに掃除をする事が望ましいと考えられます。
3)笠木内部の雨仕舞と必要性(事例)
雨漏りが屋上から発生した事で 以前から付き合いのある建設会社に屋上の防水工事をオーナー様が依頼したようですが、防水施工後も雨漏りは止まらず、私に問い合わせがありました。
確認すると笠木の腐食により雨水の浸入口となっていた事が確認されました。
オーナー様と建設会社の防水施工についての取り決め過程は分かりませんが、雨漏りが発生し屋上防水を改修する場合は、笠木部分まで防水を施工する必要性が高いと考えられます。
笠木を取り外すと笠木下地の天端に雨水が回り込んだ濡れ色のシミ跡が確認出来ます。
笠木下地に新しく防水を施工し今回は下地の形状が悪い事から、シート防水(上の写真) による施工で、笠木天端を巻き込む様に処理をしていきます。
笠木の高さを調整するために胴縁(木材)を使いこの時、ビスをシート防水に貫通させる部位には防水テープを貼り、ビスを防水テープに巻き込ませながらビス穴を塞ぐ状態にし、万が一、笠木内部に雨水が回り込んでも、ビス穴から雨水が室内に浸入する事を防ぐ配慮が必要です。
その後、笠木の復旧の段階で笠木天端にビス穴を開けない様に施工します。
夏の日差しや降雨の条件下では屋根と同等に位置する事から2次防水の概念を取り入れて、笠木を扱うようにする事が肝心です。
4)調査と修理の分離発注のリスク
調査専門の会社があるとの事ですが、私の見解は修理が出来ないのに、なぜ、調査が出来るのか不思議に感じます。
そもそも、修理をするために調査が必要であり、「ここの穴から入ったので、ふさいでください。」などという単純な指示では不十分です。
建物の納まりの不具合を確認する為に検証が必要になるので浸入口を見つけるだけでは、修理範囲を正確に確定できません。
また、調査と修理を分離発注したリスクとして、修理をしても雨漏りが止まらない場合は、修理業者は「言われたとうりにした。」と主張するし、調査会社は「修理の仕方が悪いのだ。」と、なります。
結局、双方の言い分にお客様が困ってしまうので、窓口を同じにして 、責任を持って工事に挑んでもらう事がベストです。
費用と希望耐用年数
工法 | 費用50㎡~100㎡程度(下地調整別途) | 希望耐用年数 | 防水工事・工法の特徴 |
---|---|---|---|
ウレタン防水 | 5500円~8500円 | 10~12年 | 改修工事としては一番ポピュラーな仕様で伸縮性に優れている。 |
シート防水 | 6500円~9000円 | 10~13年 | 工期の短縮がはかりやすい。 |
FRP防水 | 6500円~8500円 | 10~12年 | 軽量で耐水や耐候に優れているが、建物の揺れに対しては考慮する必要があり。 |
アスファルト防水 | 8500円~12000円 | 15~20年 | 希望耐用年数は長いが、保護モルタルにより床に荷重がかかる。 |
ここまでのお話で下地調整等の重要性を理解していただいたと思います。
工法や金額は雨漏りの状態を考慮しながらスペック(防水を重ねていく仕様)を組んでいく事から、一律の金額ではありませんが、お客様の一つの目安になるように簡単な表を作ってみました。
また、保証期間については雨漏りと塗装工事の保証のページに詳しく解説しています。
まとめ
原因を目視で確認するとお客様から「プロだから見ればわかりますよね?」と、よくいわれますが、確かにある程度の検討はつくものの似ているようで全てが同じ経路をたどる訳ではありません。
雨漏りを人で例えるなら、腕と足があり、頭があって、口から物を食べて下から出す・・・失礼!!・・・(笑
ようするに、人としての特徴は同じでも顔や性格まで全て同じ人が存在しない様に、雨漏りにも個性があるのです。
なので、基本的な修理の話をしましたが現実は、通り一遍の付き合い方では上手くいきません。
調査をして、問題のある部分を検証し現状の変更を施す必要があります。
以上を持って防水工事に伴う下地処理の必要性と注意事項の解説(雨漏り診断士の視点)を終わりたいと思います。