雨漏り診断士から見た屋根の雨仕舞
事例を上げながら電話での相談の多い屋根の雨漏りについて解説していきたいと思いますがその前に、基本的な屋根(住宅)の構造と雨仕舞について触れてみます。
目次
屋根の名称と基礎知識
野地板とはスレートや瓦など屋根材を支えるために張る板の総称で野地板の「野」は目に見えないところに用いるという意味で、屋根材を施工すれば屋根に上がったとしても全く見えなくなるという意味のようです。
また、野地には杉板野地・野地板合板・耐火野地板合板があり、屋根材の種類や防火基準により使い分けされています。
写真2:アスファルトルーフィング施工 ガルバリュウム鋼板(屋根材)施工
次に野地板の上にアスファルトルーフィング(二次防水)を施工、その上に瓦・ストレート・ガルバリュウム鋼板等の屋根材(一次防水)を葺くという流れです。
機能としては、一次防水の下に雨水が浸入しても二次防水があることで野地板まで到達しない仕組みになっており、二次防水の劣化や不具合があると、野地板を腐朽(腐食)させて雨漏りに繋がります。
工場等の折半屋根の構造は考え方が違いますが、一般的な屋根防水の仕組みは上記の図面内容になります。
屋根塗装のトラブル(業者による知識不足)の事例
数年前に屋根を塗り替えた(他の業者)のに雨漏りが発生したとのこと。
お客様からすると「工事内容が悪いのではないか?」と感じているようです。
というのも工事前に屋根を塗ることで「屋根が長持ちする」と説明を受けており、塗り替えて数年で漏れば工事内容に不信感を持つのも仕方がない。
おそらく塗装業者も悪気は無いのですが、説明としては半分正解で半分は間違いといったところでしょう・・・
理由として、屋根の塗り替えは一次防水の補強にすぎず、直接的な二次防水の補強にはつながりません。
二次防水の耐用年数は一般的に15年~20年が限界であり、耐用年数を過ぎると葺き替えるか、もしくは塗り替えで良いのかを根拠に基づいて決断をする必要があります。
なので、塗ることで屋根の寿命が長くなるという説明は不十分。
また、保証が付いているといっても、基本的に塗装工事の保証は塗料品質や剥離に対するもので、雨漏りに適用される保証は含まれない事が多く、お客様自身でも基礎的な知識を持って屋根工事を発注することが望ましいと考えられます。
屋根塗装時の注意点
雨水の逃げ道を塗料で塞がぬように考えられたのがタスペーサーです。
このタスペーサーを屋根材と屋根材の間に差し込むことで雨水を排出する隙間を確保、1次防水と二次防水の間に入り込んだ雨水をスムーズに排出します。
また、タスペーサーだけに頼るのではなく右上の写真のように、横方向に塗ることで屋根材の水の抜け道をふさがないように塗装します。
この方法はタスペーサーが商品化される以前からの施工方法ですがタスペーサーと横塗りを併用する事で、施工原因の雨漏りを予防できます。
斜壁(しゃへき)の事例
斜壁とは斜めの壁と書いて斜壁(しゃへき)と読みますが、写真1の後ろにある屋根(赤い矢印)と斜壁の勾配がほとんど変わらない事から、斜壁は屋根として捉える事が正しい判断です。
(勾配:棟からの軒先までの角度)
そうなると当然、屋根専用の雨仕舞や防水処理が必要となりますが、当時の設計者ですら壁として扱っていたため屋根としての防水性能が足らず劣化とともに多くの斜壁は雨漏り原因の可能性を含みます。
斜壁の修理(屋根と同等の工事を施す)
建物は鉄骨三階建、二階和室の天井より雨漏りが発生、天井の上はバルコニー(ベランダ)になっており、三階バルコニーに原因があると考えられる。
三階バルコニーを目視(写真2)で確認すると笠木・斜壁にタイルが施工されており、図面確認でも壁(モルタル壁とALC)として取り扱っている事が分かった。
この事から笠木・斜壁は屋根としての防水性能を満たしていないために雨漏りが発生したと考えられる。
修理方法としては、笠木・斜壁に一次防水にガルバリュウム鋼板・二次防水にルーフィングを施したところ、十年近く止まらなかった雨漏りは、この工事により終息する。
折半屋根の事例
折半屋根 (コスト削減による不具合)
事例をあげる折半屋根(板金)の雨漏りは笠木と折半屋根立ち上がりのジョイントシーリングが破断、この事によりシーリング内部(写真4)に雨水が浸入し室内に雨漏り具象が確認される。
赤の矢印が笠木ジョイント部 写真4 赤矢印のジョイント部に雨水浸入による錆
シーリング内部を確認すると、壁の奥に折半屋根(立ち上がりの鋼板)を水平に差し込んでいるだけで水切り及び立ち上がりは無くシーリングが切れれば、雨水の多くは室内に浸入してしまう納まりとなっていた。
なぜこうなったかは、新築時の施工者(職人)しか分からないが、状況から推察すると1枚の鋼板で加工すると立ち上がり寸法が足ら無い。
なので、鋼板の先を差し込んで納めたと考えられる。(上記断面図赤矢印位置の話)
というのも・・・
実際、弊社の施工では、立ち上がりを作るために2枚の鋼板を加工する必要があり既存の寸足らずの部分に水切りを新しく設置しシーリング処理、これでシーリングが切れても以前のように簡単に雨水が浸入しない仕組みが出来上がる。
注意:笠木にも雨水が浸入しない仕組みを施していますが本文からそれるので、屋根では解説しないものとする。(笠木については壁の雨漏りで解説)
2枚の鋼板を使い水切りを作ると、金額ベースで10万ぐらいの原価が変わりますが、シーリングが切れると雨漏りがおきる施工と、シーリングが切れても雨漏りが起きない施工では、今後の雨漏りのリスクは比べ物にはなりません。
折半屋根(ボルトに看板金具を取り付けたために起きた不具合)
修理をおこなったが雨漏りは止まらず弊社に依頼を頂きました。
以前、シーリング(コーキング)でボルトキャップを補修してある跡がありましたが、看板金具(赤の矢印)と折半屋根のボルトキャップに散水すると雨漏りが確認されました。
看板が風を受けて、看板金具に負荷がかかり、ボルトの穴が広がることで雨の浸入口になったようです。
折半屋根(経年劣化)
折半屋根は一枚の板を屋根に載せているわけではなく持ち運びやすい長さの加工品を重ねていく事で一枚の屋根になります。
新築時にはしっかりとつなぎ目が重なっていますが 、夏の日差しや冬の寒さで屋根材に歪みや反り返りができます。
反り返り等を防止する工夫もありますが本文から話がそれるので、そのお話はまた今度にします。
上の写真は元々のつなぎ目の位置にマジックで印を打ちました。
その後、つなぎ目を抑えた手を放すと、歪んだ屋根が反りかえり1㎝近くも印の位置より浮き上がります。
当然ですが折半板のつなぎ目の係が悪く横降りになると雨漏りが起きる状態、単純な雨漏りのメカニズムですが適切な処理を施して 今回の修理は終了です。
カラーベスト・スレート屋根(施工のひと手間と工夫)
これは弊社のこだわりですが壁・谷などの取り合いに貼るカラーベスト(スレート)の先端を斜めにカットします。(左下の写真)
写真5:青矢印の方向に雨水が流れる 写真6:先端がカットされていない
通常は写真6のように角はとがったままですが、大雨ではカラーベストの先端に雨水が滞留し排出が悪く許容範囲を超えるとルーフィングの内側に水が回り雨漏りの原因になります。
なので、大雨時でも水の流れをある程度コントロールするためのひと手間です。
屋根カバー工法(メリットとデメリット)の事例
話しの前に葺き替え工程を説明してから本題(メリットとデメリット)に入ります。
理由として文字で長々とメリット・デメリットを説明するより、はるかに分かりやすいと思います。
瓦屋根の瓦と土を下ろしますが、これが結構な肉体労働で4m程度の小さな庇でも、元の量の2.5倍は膨らみ、土の袋で10本。
ようやく土を下ろして下地が出てきたが、ここで作業は終われない。
下地のルーフィングまで施工しないと夜中に雨が降ると家の中が水浸しになる恐れがあるので、なにがなんでも、今日中にルーフィングまで施工しなければならない。
既存下地の上からコンパネ(野地板)を張りたいところですが、ここで問題が発生、庇の真ん中が5㎝も下がっている事が分かった。
庇瓦は厚みもあり、目視では余り目立たないが今回は庇の軽量化と雨仕舞を考えガルバリュウム鋼板に変更した事からこのまま、現状の下地ラインで施工すると真ん中でV字に反り返って見えてしまう。
2Fの庇なので目立たないといえば目立ないが、雨仕舞的にも好ましくない事から庇が水平になるように下地を補強する事にした。
問題は今日中にルーフィングまで張り終える必要があり、時間との戦いになってしまった事と、一緒に仕事をしていた大工の機嫌が悪くなってきた事。・・・(笑
注:屋根の形状には直線屋根・そり(てり)屋根・むくり屋根などのデザインがあり、変形した屋根の全てが不具合ではありません。
白い糸(写真7)を張って庇の水平を確認し木材で低い部分をかさ上げするが、一番低い場所では2重にかさ上げする必要がある。
ようやく下地のコンパネ(野地板)を水平に貼り終わり後はルーフィングを差し込んで、なんとか雨が降っても問題が無い範囲まで施工が出来た。
まぁ、庇が下がっていなければ時間的に余裕もあったはずではあるが・・・
さて、ここまでのお話しで下地の重要性が伝わったでしょうか・・・?
アクシデントなどの工程を理解していただいた上で、ようやくカバー工法について お聞きください。
まず、カバー工法は既存の屋根(カラーベスト等)の上にルーフィングを張り、新設の屋根を作る方法です。
メリットとして既存の屋根の上に屋根材を張るわけですから廃棄物が少量で済み、その分、費用も安くなる事から一般的によく用いられる工法です。
しかし、デメリットとして工程の話でも分かるように、既存の屋根材を撤去しない事から野地板の腐朽(腐食)や反り返りを確認しないまま、施工してしまうこと。
比喩になりますが・・・
「ぬかに釘」がぴったりな表現で2018年の大阪を直撃した台風21号を考えても屋根のカバー工法はリスクが高いと私は考えています。
さらに、屋根重量が単純に考えても既存屋根の2倍になり、かなり建物に負担がかかります。
ただし、メーカーとして推奨しているメーカーもあることから、カバー工法が駄目だというわけではありません。
このようにお話しますが・・・
私も屋根材に含まれるアスベスト等も考慮し総合的な判断としてカバー工法を選択する事もあります。
なので、これらのメリット・デメリットを見極めて下記に考慮しながら葺き替えを考えなければならない。
- 雨漏りが発生した
既存の野地板は腐朽(腐食)していないか? - 野地板の下にある
躯体の柱・梁にダメージは無いのか? - 屋根の重量を考えても2度目のカバー工法は出来ない!
などの考慮が必要である。
例えば、人の体で損傷部位を安易に密閉すると化膿する危険性があり、先ずは消毒し空気を通すガーゼで傷口を塞ぐ必要があります。
これと考えは同じで、屋根の損傷した部分のダメージを考慮して施工する必要があります。
まとめ(雨漏り診断士としての屋根の葺き替え)
屋根塗装のトラブル・斜壁(しゃへき)・折半屋根の不具合・カラーベストの納まり・カバー工法など数十年前は一般的な施工方法がトラブルにより改良され、現在ではタブーとされる工事方法の種類もさまざま。
工事業者は終わればそれまで、「あの頃は この施工方法で良かったのに!」で済みますが、お客様にとっては数十年先まで不具合を抱えなければなりません。
また雨漏りと思っていたのが、実は結露と判明し修理業者と後々、大きなトラブルに発展する事例もあり、的を射た対処ができ 信頼できる業者に依頼する事が大切です。
決して面倒だから・・・とか、費用がかかりそうだからと放置をしないこと。・・(笑
長くなりましたが、私の紹介した話は、お役に立てたでしょうか・・・
以上を持って屋根の雨漏りについての話しを終わります。
追伸・・・・屋根結露の記事をリンクしておきます。雨漏りか結露か分からない!の部分を
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